ヤングアニマル2大「不倫マンガ」対談!

不倫。辞書には、「人が踏み行うべき道からはずれること。特に、配偶者でない者との男女関係」とあります。端的にまとめると、外道の行為。しかし、なぜ人は不倫をしてしまうのか。そんな「不倫」をテーマにしたマンガ・「ただ離婚してないだけ」(本田優貴)、「くだけるプリン」(黒丸)がヤングアニマルコミックスから刊行しております。それぞれの作者と、それぞれの作品を推してくれている方との対談を実施。その2つの対談を通して、作品の魅力と不倫の意味に触れていきます──

ただ離婚してないだけ

作者・本田優貴×電子書店バイヤー・竹田裕美さん

『ただ離婚してないだけ』がひそかに話題だ。
関係の冷え切った夫婦が「夫の不倫」をきっかけにあれよあれよと殺人・監禁・二度目の殺人に手を染めていってしまう「衝撃の一般人サスペンス」である。
今回はそのコミックス最新4巻の発売を記念して、作者の本田優貴さんと電子書店「まんが王国」のバイヤーである竹田裕美さんの対談をお届け。
『ただ離婚してないだけ』は今、マンガ業界になくてはならない電子書店での売上が目立っており、特に「まんが王国」は『ただ離婚してないだけ』にいち早く目をつけ、きめ細かい販売戦略で売上を伸ばしている。
マンガ家と電子書店バイヤー、そんな二人による対談「『ただ離婚してないだけ』と令和のマンガ事情──電子コミック業界の今」をご覧ください。

撮影:中庭愉生

※対談中にはマンガ内容のネタバレがございます。ご了承の上、お読みください。

「女性に反感を買うマンガだと思ったけど、女性に読んでもらってると知って
意外でした」

──「まんが王国」さんで『ただ離婚してないだけ』を推してくださったり、話売り連載になったいきさつを教えていただけますか?

竹田
1巻が出た時に、弊社の編成担当のメンバー数人が読みながら盛り上がってたんです。私も「どうしたどうした?」と加わったら、「このラストシーンはスゴイ!」と言っているんですね。タイトル的にも電子コミック業界のトレンド的にも「不倫もの」「夫婦もの」かなと思ったんですが、1巻のラストで不倫相手を殺しちゃった(笑)。みんなそこの衝撃で盛り上がっていました(笑)。
本田
そうなんですね、嬉しいです(笑)。
ストーカー化したセフレの萌をはずみで殺してしまう正隆と雪映…。
竹田
ちょうどその日が偶然、白泉社さんとの定例打合せの日だったので「あの展開スゴイですね」という話をさせていただいたら、連載が月刊誌なので2巻が出るのがちょっと先になると教えていただいたんですね。既に1巻の段階で「まんが王国」ユーザーさんには評判で、書影への反応も良かったですし、内容も1話ごとの「引き」が強かったので、おそらく「話売り連載」の形でも売れるんじゃないかなと思って1話売りを提案させていただきました。話売りユーザーさんの感想も皆さん、最初は王道の「不倫もの」と思って読んでらっしゃったんですが、例のシーンで「えっ!?」って、いつかの私達と同じ反応で(笑)。『離婚』はそれ以降の話の展開の早さと「そっちに行くんだ!?」という今までになかった驚きがあって、毎話の引きも強いですし、話売り連載にもユーザーの皆さんはしっかりついてきて下さっています。今思ってもあの「1巻のラストの衝撃」はスゴイです(笑)。
本田
ありがとうございます。いや、嬉しいですね。あまりエゴサーチとかもしないので、感想をこんなにしっかり聞くのはめったになくて。

──本田さんは、売れているという実感はありますか?

本田
うーん、実感……。通帳記入したときとか、確かに実感しますね。うわ、売れてるんだー…って(笑)。
竹田
売れてると思います(笑)。電子コミック業界では「不倫もの」「夫婦もの」は不動の人気ジャンルで数もたくさんありますが、今はそこに「何か」をプラスするマンガが増えてきました。そうじゃないと差別化されないので埋もれてしまうんですね。なので不倫もので年齢差がすごいあるとか、異世界でとか、プラスの「何か」が必要で、『離婚』は「殺人・監禁」といったところが読者さんに驚きとしてインパクトがあります。「まんが王国」のユーザーさんは女性が多いのですが、ベースにある不倫描写や夫婦描写に対して「こういう会話ってあるよね」「こういう夫・妻いるよね」という感想が多いですね。そういう身近な部分の描写がしっかりした上での「殺人・監禁」なので、ギャップが効いているんだと思います。
本田
僕このマンガ、女性にけっこう反感買うんじゃないかなと思ってたんですけど、仕事場のスタッフに「うちのお母さんがハマって読んでますよ」とか教えてもらって(笑)。女性にも全然読んでもらってるんだーって、意外でした。
竹田
女性もたくさん読んでくれてます。女性はやっぱり妻(雪映)の気持ちで読むので、レビューでも「このクズ旦那が!」とかが多かったんですけど(笑)、話が進むにつれて少しずつ夫(正隆)の事情に理解を示す方もいらっしゃれば、変わらず「許せない、クズ!」って怒り続けてる方もいて、今は二派に分かれています。
本田
ただ僕「正隆ってそんなに嫌われるんだ!?」っていう気持ちもあります(笑)。いや、正隆も頑張ってるんですけどね。
竹田
そこがすごくリアルなんだと思います! 男性が頑張ってる感じをすごく出してくるんですけど、女性に「いやいや全然だよ、全然まだ頑張ってないよ!」って言われちゃう感じが、すっごいリアルで夫婦っぽいですよね(笑)。
本田
ああ~(笑)。
竹田
佐野を監禁することになったシーンで車のキーを見つけてどうしようってなった夫が妻に報告したら「なんで早く言わないの!?」って怒られて、夫が「いや、だからいま相談しようとしたんだけど…」ってなる感じ(笑)。このやりとりめっちゃリアル!って思いました(笑)。こういう細かいところで共感したり気持ちを持って行かれるので、ずっと飽きずに読者さんが付いてくれてるんだと思います。
トゲトゲした夫婦の会話…。

「電子コミックで大切なのは『共感』
『反感』『タイトル』『引き』
『展開の早さ』
『継続率』『試し読み』」

──やはり「共感」や「反感」は大事なエッセンスなのですね。

竹田
そうですね。電子コミックは手元に残らないこともあって、読んでいたことを忘れちゃうというのがよくあるんですね。マンガアプリも一度使わなくなるともう全く使わない、ですとか。「まんが王国」も電子書店なのでユーザーさんが「まんが王国に来る」という行動をまずして下さらないと、マンガがどれだけ面白くても読まれることはないわけです。なので「このマンガが読みたい」「あの続きはまだかな」という「訪れるきっかけになるマンガ」が電子書店としてはありがたいんです。たとえ新刊や最新話が1か月先だとしてもユーザーさんが覚えててくれるくらいのマンガというのは、やっぱり共感や反感が強いですね。本田先生のマンガは『東京闇虫』も『ただ離婚してないだけ』もそういう要素が強いので人気で、特に『離婚』はリアル感もあるので非常に人気で、ユーザーさんが忘れられないマンガなんだと思います。

──それはどういうデータから読み取れるのですか?

竹田
「継続率」を見ます。『離婚』は話売りの販売数が落ちないので、読者さんがしっかり付いてきてくれているということで、「最新話を待っている」「読みに訪れてきている」ということで、電子書店としてはありがたいです。継続率が良いマンガは「1話ごとに起承転結の起伏がしっかりある」「ラストの引きが強い」という傾向があります。ユーザーさんはその辺りが本当にシビアで敏感で「最近このマンガの展開ちょっと長くない?」とかレビューに書いていて、実際に売上が落ち着いていったりしますね。
本田
そうなんですね。僕はマンガの基本的なところはもちろんなんですけど、正隆(夫)になんとかなりきって心情的な部分をできるだけリアルに描きたいなあと気をつけていたので、それで共感や反感を得られているならよかったです。でも内容がだいぶ特殊な状況なので、殺人とか監禁とか、この夫婦はどういう気持ちなんだろうというのは悩みました。人を監禁しながら食べる夕飯ってどんな感じなんだろうとか。アクションシーンは描いてて楽しいので、4巻の佐野の脱走とか考えてても楽しかったんですけど、会話劇は本当に難しいですね。

「夫婦の冷めてる関係の描写が
めちゃめちゃリアル」

──雪映(妻)を描くのはいかがですか?

本田
女の人の気持ちになって、とは描いていないですね。僕、昔は女の人、全然描けなかったんですけど、今は女の人の気持ちを描こうというのではなくて、僕は男性なのでもう僕の中にある気持ちを雪映に投影して、という感じです。昔はすごい悩んだんですけど、男の人も女の人も考えてることはそんなに差がないと思うんですよ。
竹田
正隆と雪映の考え方の違いの出し方はどのようにしているのですか?
本田
女の人の方が現実的で、男の人の方が理想で動く感じですかね。雪映の方が冷静で、こうだったらいいなで動く正隆にブレーキをかけたり。
竹田
ああー、なるほどです。雪映のセリフで「私たちを繋ぐのは人を殺したから」というのがありましたが、それ言っちゃうんだ!って思いました(笑)。スゴイなと、まさに現実的な一言でしたよね。脅迫にも思えるようなそれを、でも言わないと繋がりが壊れてしまうと感じていた雪映のセリフだったのかなと思うと、計算高いなと。ユーザーさんのレビューでも「お腹にいる子供のために」という現実目線で雪映の行動を支持する人は結構多いですね。
 
佐野を監禁することになってしまい、離婚を切り出す雪映だが…。
本田
1巻の最初の夫婦の状態は、お互いが向き合わない、意志の疎通が全然できていないというもので、でも人を殺したことで向き合わざるを得なくなって段々と夫婦っぽくなっていく。思ったことをちゃんと言ったりとか成長していくので、だから「人を殺したから繋がっている」というのは、雪映はあえて言ったんですよね。正隆はめっちゃショックだったと思いますけど(笑)。
竹田
「あなたが不倫をしなければ殺す必要はなかった」とかも言ってますよね。しかも体調が悪い雪映を正隆が心配しているところで、今言うかと(笑)。
本田
正隆もそれに対して「いやそれは謝ったのに!」ってイラつくんですけど。蒸し返すのかよって。正隆的にはもう済んだことなんですよね。
竹田
あそこ、すごい良かったです!(笑) 人を殺したり監禁しているというすごい状況なんですけど、そういうところでめちゃめちゃリアルだと思ってしまうんですよね。このマンガで1巻の最後に萌ちゃんを殺してしまうというのは初めから決まったいたのですか?
本田
それは決めていまして、そこに至るまでをどう描こうかなと。企画を考え始めた時はもっとゆっくり、正隆と萌ちゃんの出会いとか初めて浮気するところとか、そういうのも描いて人間関係を作るところも見せたネームだったんですけど、展開がかなり遅いので「初めから不倫している」というスタートにして、それで1巻のラストでの殺人になりました。展開の早さは電子業界的には大切ですか?
竹田
そうですね。ひとつは「試し読み」がポイントで、たとえば電子コミックスで試し読みが1話とか15ページとかできるとして、その中で読者さんを掴むことができないとその読者さんは二度と帰ってきてくれないんですね。「読まない」という側に置かれてしまって……。なので試し読みできるページ数でいかに読者さんを掴んで話売りやコミックスを買っていただくかというのが大切なので、展開が遅くても掴むことができればいいと思います。ただ展開が早い方が、継続率は上がる傾向にありますね。
本田
それで言うと『離婚』は、1巻は展開が遅いほうなんじゃないですか?
竹田
そうだと思います。ただタイミングが良かったのが、1巻が出た直後のタイミングで続きを話売り連載させていただけることになったので、1巻を買った方が続きが気になって話売りを買ってくださっていますね。マンガの評判も良いので、1巻の展開が早くないことはそこまで影響していないと思います。
本田
これまでマンガを作るときに電子というのは意識していなかったんですけど、『東京闇虫』も電子で評判が良いので、今後は少しは考えたりするのかなと思います。今日の話はいろいろ勉強になりますね。
竹田
今、電子でマンガを読んでらっしゃる方というのは全体的に女性の方が多いと言われていまして、なので女性が読めるマンガが今後も需要としてはあると思います。それでいて電子で読むということはやっぱりちょっと「表立っては読めない」という、ちょっとエッチだったり、人には言えない悩みがテーマだったり、という部分があるから電子でとなるので、だから電子書店でも「不倫もの」「夫婦もの」は人気なんですね。読んでいるのが人に知られたら「え、不倫したいの?」「夫婦関係に問題があるの?」という視線が気になりますので(笑)。またはそういう関係性やテーマで悩んでいる方が癒しや慰めや解決方法を求めていたり、という場合でもやっぱり電子の方が読みやすいですよね。だから『ただ離婚してないだけ』はタイトルもいいですし、冷え切った夫婦関係というのも電子にマッチしていました。なにより1巻のラストは驚きました(笑)。
会話なし、笑顔なし、セックスなし…。
本田
『離婚』の正隆と雪映のような「会話の無い夫婦」というのは、多いと思うんです。なぜかというと、いつの間にか夫婦関係が「ガマン対決」になっちゃっているという。お互いに「負けてたまるか」とか「謝ったら負け」とか、そういう感じの生活になっちゃっている夫婦。それをどうすれば会話するようになるかということで、一緒に人を殺したら向き合わざるを得ないのでは、と描き始めました。なので殺す時は夫婦一緒に、と決めていたのでそのシーンを「まんが王国」さんに見つけてもらってよかったです(笑)。これからもぜひよろしくお願いします。
竹田
こちらこそよろしくお願いします。続きも楽しみです!
本田
ありがとうございます、頑張ります。
     
『ただ離婚してないだけ』(本田優貴・著/白泉社刊)

結婚7年目の正隆と雪映は、冷え切った夫婦関係を送っていた。会話なし、セックスなし、なし尽くしの毎日で正隆は17歳の萌という女の子と不倫をしていた。萌の妊娠をきっかけに、夫婦の人生は戦慄すべきものになっていく…。コミックス1~4巻発売中。

試し読み・作品紹介はこちらから
本田優貴 ほんだゆうき
漫画家。大阪府出身
2010年に借金まみれの青年の闇仕事を描いた『東京闇虫』(白泉社刊)で連載デビュー。続シリーズ『東京闇虫パンドラ』と2作とも実写映画化されるなどヒット作となる。『ただ離婚してないだけ』はありふれた夫婦が殺人を犯してしまう姿を描いた一般人サスペンス。
竹田裕美 たけだひろみ
「株式会社ビーグリー」営業企画部プランナー。
電子書店「まんが王国」でさまざまな作品をユーザーに届けており、『ただ離婚してないだけ』をいち早く取り上げきめ細かい施策で売上増に導くなど、電子コミック業界の動向に詳しく信頼の厚いマンガバイヤー。

くだけるプリン

作者・黒丸×書店員・新井見枝香さん

人はなぜ不倫をするのか──。
マンガ『くだけるプリン』は、様々な立場の女性6人の「不倫」との関わりを描いた短編集です。
冷めてる夫婦、想い人が妻子持ち、寝取られ離婚、不倫歴10年以上、異様な夫婦ごっこ、36歳の婚活事情──6人はそれぞれの人生を過ごす中で、不倫をし、不倫され、不倫に苦しみ、それでも何かを見つけてまた今日を始めます。
そんな本作を「読んでよかった!」と激賞するのが、カリスマ書店員としてこれまで数多くの本を広めてきた新井見枝香さん。
マンガ家とカリスマ書店員、同い年の二人による対談「『くだけるプリン』に見る、女性の不倫・恋愛・人生・セックス」をご覧ください。

撮影:羊肉るとん

「友達夫婦と会ったら『この二人
してるんだよなー』って思っちゃう」

──『くだけるプリン』に「おもしろかった!読んでよかった!」と非常にありがたいコメントをいただき嬉しかったです。

新井
自分がすごい興味のある話ということもあって、とても面白かったです。大人になって色んな人に会うと「そういうコト(=セックス)」と全く想像がつながらない人がいて。でも結婚してたり子供がいたりして、そういう人に会うと「この人、一体どんな顔してしてるんだろう?」「そういう雰囲気の導入はどんな感じになるんだろう?」って、とっても気になるんです(笑)。
黒丸
それ、すっごくわかります。友達夫婦と会ったりしても、これまで友達のいろんなことは知ってるけど、「そういうコト」のリアルな部分はもちろん知らないじゃないですか。当たり前だけど実際の現場を見たことはないので(笑)。そんな友達が、隣にいる旦那さんと、してるんだよなー、したことあるんだよなーってついつい思ってしまいますよね。
新井
思っちゃいます(笑)。『くだけるプリン』に出てくる人も、想像しやすい人もいれば想像できない人もいて、やっぱりすごく面白かったです。
黒丸
新井さんは「新井賞」を主宰したりしてて、小説がメインの方だと思っていたのですが、思い切って感想を依頼してよかったです。読んでくださって本当にありがとうございます。
新井
小説もマンガも本当にたくさんありますし、不倫がテーマのものだけでもすごいいっぱいあるので、こういう風に自分のところに来た本というのは特別な感じがするというか、意味があるんじゃないかって思ったりしますね。それで面白かったので最高です。
黒丸
嬉しいです。新井さんは3話目「たたかうサカナ」の主人公タコちゃんが好きというのがすごく意外で。
新井
あ、そうですか?
黒丸
「仲良くなるタイプではないけれど」っておっしゃってて、それは私もすごく同意なんですが(笑)。タコちゃんはたぶん女性には嫌われやすいタイプだと思うんです。
新井
ですよね(笑)。自分の事もろくに磨かず、美しい人をひがんだりとか、色々とグダグダ言ったりとか、やっぱり根本はあんまり好きじゃないんですけど、そういう子の「その先」を見ると、ああ憎めないなあって。
黒丸
この子は嫌われるだろうなと思いつつも、でも何とか嫌われたまま終わらないようにと試行錯誤しながら描いていたので、いやーよかったです。
第3話「たたかうサカナ」主人公・晶子。夫の浮気を疑うも、夫に「女として見られない」と言われて…。
新井
人それぞれ好みがありますし、それに読む人の状況次第で感情移入したり嫌いになったりすると思うんですけど、普通は知ることができない「その先」を知ると、結局みんな嫌いにはなれないんじゃないかなと。
黒丸
ネット掲示板の相談なんかで「諸々の事情により不倫に走ってしまったんですけど、やめられなくなってしまってどうすれば…」みたいなのがあるじゃないですか。女性の相談者が自分でもどうしようもない、止むに止まれぬ気持ちや事情を綴っているのを読むと、とても感情移入できるんです。でも回答者の中には、もう烈火のごとく全否定でめちゃくちゃに辛辣な返事を書いている人もいて、相談者の気持ちになったらこれはさぞ辛かろう……と。
新井
ああ、うんうん。
黒丸
もちろん既婚者や、パートナーの浮気で苦しんでいる人からしたら「オマエみたいな女がいるから!」ってなる気持ちはすごいわかるんですけど、今この掲示板にいて書き込んでいる相談者にとっては、それは意味が無いんじゃないかなと思うんですよ。『くだけるプリン』でも5話目「まぼろし夫婦」の女性は経済的には恵まれている奥さんなので、カツカツの暮らしをしてたり夫の浮気に悩む人からしたら「贅沢な悩みですねぇ~~」って言われちゃうと思うので、それでも何とか感情移入して想いを馳せられるようにと常に考えて描いていました。タコちゃんも、友達にはなれないけど好きという新井さんの感想に、すごく励まされました。
新井
読む人によって色んな感想がありそうですけど、「コイツだけは許さん!」ってなることはなさそう。みんなどこかしら好きになるんじゃないかなあ。不倫にしてもどんな話題でも、自分のことじゃないのにすごく怒る人いますよね。
黒丸
いますね。
新井
旦那さんがした不倫でも、女の人って不倫相手の女性に怒りが向きがちです。今の掲示板の話でも、女対女ですよね。アレ、何でなんでしょうね。
黒丸
確かに。「このドロボウ猫!」ってなりますよね。私、昼ドラが好きだったんですけど仕事しながら見てても女が女とバトルになることに何の疑問もないですね(笑)。
新井
女と女が戦っているのって、なんか面白いんでしょうね。男の人もそういうの好きじゃないですか。
黒丸
普段キレイにしているからか、滑稽だったりダサかったり、余計に面白く見えるんですかね。
新井
キレイな髪ひっぱったり服やぶいたり(笑)。でもタコちゃんはそうはならなかったですよね。あそこで好きになったのかも。
黒丸
ああ、なるほど嬉しいです。確かにタコちゃんは女対女にならなかったですね。相手の女に対する強烈な気持ちはあるけど、バトルにはならなかった。男をノックアウトしました(笑)。

「『結婚して子供ができてから
セックスしてない』という
寂しさはどうすればいいんだろう」

新井
5話目「まぼろし夫婦」もすごい好きですね。裕福な奥さんが寂しさから出張ホストと理想の夫婦ごっこをする話ですけど、女の人ってお金を払って恋人ごっこをしたり性欲を満たしたりっていう場所があんまりないですよね。ゼロではないですけど、それこそ表立って「女性用!」ってビルが建ってるわけじゃないですし。
黒丸
風俗では、たとえば店舗型と派遣型っていうのがあるじゃないですか。男性向けは両方ありますよね、サービスを提供するのが女性で。逆に女性向け風俗でサービスを提供するのが男性だと、店舗型は無理らしいです。男性がもたないということで。
新井
はあ~~~、なるほど!
黒丸
なるほどですよね! 女性はギリギリ、技術と体力でなんとかなるけど、男性はそれが難しい。だから派遣型で、1日1人とか2人とかとじっくりと。「まぼろし夫婦」を描くにあたって更に少し調べたんですけど、そういう派遣型サービスのサイトには、サービスを提供する男性の写真やプロフィールが載っていて、利用した人がレビューを書けるようになってるんです。そのレビューがエロいんですよ(笑)。
新井
えっ(笑)。
黒丸
直接的なことを書いてるわけではなくて、感情的で生々しいというか、生活感が見えてエロいというか。「50代・主婦」って方が「もうずっと夫にも子供たちにも母としか見られていません。久しぶりに女性として大切にされて色々思い出しました。ありがとうございます」とか、エロいなあ~って食い入るように見ちゃって。
新井
エロい。気になる。
第5話「まぼろし夫婦」主人公・笙子。夫の留守中に呼んだ出張ホストに、「理想の夫婦ごっこ」をしたいと依頼する。
黒丸
感動しちゃったんですよ。もちろん「スッキリしにきました。よかったです」とかもあるんですけど、多くは30代や40代やそれ以上で、色んな人生というか背景というかが感じられて。オススメです、派遣型サービスのサイトのレビュー探訪(笑)。男性の事を「セラピスト」と呼ぶみたいなんですけど、タイプが細かく書かれていて、好みが絞り込めるんですよ。さわやか系、ガチムチ系、細マッチョ系、ぽっちゃりとか、スーツ男子とか、色んなタイプで絞り込んでいけるようになってて、きめ細かいなあって。
新井
すごい! でも絶対大事ですよね。ちなみに黒丸さんはどんなタイプにたどり着いたんですか?
黒丸
えっ! いや、その時は「身長高め、サラリーマン風、42歳くらい」みたいな…(笑)。年下のセラピストはみんな可愛い子ばっかりなんですけど、私の手には負えないのでちょっと年上に。新井さんはどうですか?
新井
私はすごいおじさんで、見た目はキレイじゃない方のほうが、利用しやすい気がします(笑)。絶対緊張しますよね、楽しいんだかわかんなくなりそう。
黒丸
確かに。リアルに楽しむんだったら普通な感じの方がいい気がしますね。
新井
そう考えると、普通に街にいるカップルもそういうサービスの利用者かもしれない。女性はどちらかというと性的にというより「寂しくて」とかの精神的なぬくもりがほしい時が多いと思うので、リアルな恋愛として相手を探してヒドイ人に当たってしまうかもしれないことを考えると、そういうサービスで精神的な満足感を安全に得られるのなら、いいかもしれないですね。
黒丸
結婚してたら、余計にそう思っちゃう人がいるかもなと。
新井
そうですよね。マンガにも「結婚して子供ができてからセックスしてない」って女性がいましたけど、そういう寂しさはどうすればいいんだろう。うーん、外に求めるしかないですよね……。結婚って、結婚指輪って、すごい存在ですよね。「結婚してます」というのを人に伝えてるんですもんね。
黒丸
結構目立つところにつけてますしね。
新井
セックスって平等じゃなくて「女の人がOKする、男の人がやらせてもらう」というのが当たり前の図式だと思ってたんですけど、それでもし結婚した後に「ねえ、あなた……」って言って「ちょっと今日忙しいから」って言われたらって想像したら、私はもうすごいショックだし、恥ずかしい……。
黒丸
「あっ、すみませんでした……ふしだらで……」みたいな。
新井
そう、急にそうなりますよね。怖い……。
黒丸
「当たり前の図式」の話だと、「相手の事もそんなに知らないけど男から誘われたらとりあえずしちゃう」っていう女友達に「なぜだ!?」って聞いたら、その子も「なぜだろう!?」って(笑)。でも全然傷ついたとか後悔とかもないみたいで。
新井
そういう「なんでOKしちゃったんだろう?」って経験、ないですか?
黒丸
いや、ないですね……。
新井
何かの弾みでとか、お酒の勢いでとか。
黒丸
ない……。私、つまんない……。新井さんはありますか?
新井
そりゃありますよね。みんなあると思ってました。
黒丸
あわわわわ……。
新井
そんな減るもんじゃないし、と。
黒丸
それは思います。お互いに「OK」でのことなら、むしろ「増えたな」って思うことはある気がします。
新井
ああ、「何かをもらった」って気分にはなるかもしれないですね。それで言うと、付き合っててするものと、何の意味もなくするものは、別の何かをもらえるというか。『くだけるプリン』の1話目っぽい。
黒丸
あ、本当だ。1話目の主人公はコミックスの最終話にもちょこっとだけ出てくるんですけど、なんとなく表情が幸せそうなので浮気がバレた様子はないですね(笑)。

「(不倫は)すると思います」

新井
でも私ももうちょっと何回もそういうことは起こるもんだと思ってたんですけど、全然ないんですよね。いまウチの隣に住んでる女の人はかなり色んな男性を連れ込んでるんですよ(笑)。いつも違う人を。聞こえてくるんですよね(笑)。部屋をひとつ隔てて全然違う状況なんです。頻繁にそういうことをしている部屋と、全然ない部屋。
黒丸
やっぱりそういうことが起こったほうがいいんですかね。
新井
いいと思います。そういうことが起こった人に「いいなー」って思っちゃうから。「あったほうがいい」って思っていますからね。
黒丸
確かに思ってますね。自分に浮ついた話がなさすぎて、ちょっと悔しいぜってくらい思ってます。
新井
セックス自体が好きじゃないって人もたくさんいると思いますけど、自分がまだわかんないだけかもしれない。相手にもよるし。それに人から性欲のようなものを示されると「お、自分はその価値があるのかね?」って喜びがまずありますね。
黒丸
ありますね。その上で受け入れるかどうかを決める権利をいただけるのなら、喜んで考えさせていただきたい。ただ面倒なのが、大人になると色々な経験や知識があるがゆえに、そういうシチュエーションになっても「先」を想像してしまって飛び込めない。飛び込んだとしてハッピーになっても傷ついたとしても、どっちも怖いししんどそう(笑)。『くだけるプリン』は不倫がテーマですけど、新井さんは不倫ってしてしまうと思いますか? 既婚者を相手にだったり、ご自身が結婚後に、とか。
新井
すると思います。
第1話「くだけるプリン」主人公・咲子。冷めてる夫婦関係を送る中、とあるきっかけで社食のアルバイト・佐合に…。
黒丸
断言!(笑)
新井
誰も結婚したくないわ、こんな人(笑)。でも結婚したとたんに他の人に愛を感じたり性欲が湧いたりしないなんて、なんで誓えるのかなって。
黒丸
確かに。だから、みんな苦労してるんでしょうね。私は倫理観が強いほうで、わりとドライなので、すごい追い詰められた「止むに止まれぬ…」みたいな感情ってどんなのだろうという興味はあります。倫理観が強い私がそこまでになってしまうとしたら、相手の男性はどんな男性なんだろう、どういう状況なんだろうっていう。結婚前は「なんで不倫なんて、浮気なんて、するんだろう」って素直に思ってたんですね。でも結婚したとたん、不倫したくなる感覚はわかっちゃった(笑)。なるほどー、わかる気はするわーって。とはいえ私はなかなか思い切ったことはできないので、そんな私が不倫しちゃうとしたら、それは一体どういうことだろう?っていうところの興味ですね。結婚したからこそ不倫しちゃう人もいるんだろうな。私も、結婚しなかったら不倫なんて意味がわからないままだったろうし。
新井
不倫をしちゃった人たちということで言えば、『くだけるプリン』はどの主人公も、お話の「先」がどうなったのかすごい気になります。6話目「とりどり迷子」の男性、すごいよかったです。一番かっこいい。
第6話「とりどり迷子」主人公・翔子が婚活パーティで出会った男性。不愛想な人だが…。
黒丸
いいですよね、私もあの男性が一番かっこいいと思います。『くだけるプリン』で描いたそれぞれの物語の「先」は、全く考えてないんですよね。もし「先」を描いちゃったら、ドラマを起こさないといけなくなるから、みんな何かしらドロドロになりそうで。
新井
確かにそうですね。続きも読みたいですけど、あの後どうなるのかなって想像するのも楽しい。2話目「いつわる絵筆」の主人公のその後とか全くわからない。すごいですよね、あの場面で口でやりましたからね。
黒丸
言わないでください(笑)。私はどの話のセックスシーンも読み返せないんですけど、2話目は最も恥ずかしい……。私の父や夫のお母さんから「新しい本が出たみたいだけどこれはどんな漫画なの?」っていう連絡が来て、「殺せ……」って思いました(笑)。
新井
作品を作る方って、そういう親戚関係とかも大切にして「良い嫁」とか思われたいけど作品も妥協できなくて、困りますよね。
黒丸
こういうテイストのマンガは初めて描いたのでそういうところで今すごいうろたえていて……。エッチなマンガで大ヒットをしてる作家さんはたくさんいて、皆さんどうしてるんだろう……。でも描いたものは私も多くの人に届けたい。こちらはもう腹をかっさばいちゃったので、その血しぶきはできるだけ遠くに届いてほしいですよね。せっかく描いたんだから派手に展開していってほしい。
第2話「いつわる絵筆」主人公・詳子。妻子ある上司に長らく想いを寄せていた。
新井
ウチのお店(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)のお客さんはなんとなく、エッチな話とかセックスの話をしなさそうな方が多いんですよ。だからこそそういう人に読んでほしい。そういう人にも、このマンガは安心と希望を与えてくれると思いますから。
黒丸
目立つ陳列をして下さって本当にありがとうございます。これからもぜひよろしくお願いします。
新井
こちらこそ依頼して下さってありがとうございました。本当、すごい面白かったです!
黒丸
ありがとうございます……! 皆さん、ぜひ読んでみて下さい。
 
『くだけるプリン』(黒丸・著/白泉社刊)

冷めてる夫婦、片想い相手が妻子持ち、寝取られ離婚、不倫歴10年以上、異様な夫婦ごっこ、36歳の婚活事情。性から逃れられない6編のハイクオリティドラマ。

試し読み・作品紹介はこちらから
黒丸 くろまる
漫画家。岐阜県出身。
2003年に戦慄の詐欺サスペンス『クロサギ』(原案:夏原武/小学館刊)で連載デビュー。『クロサギ』は小学館漫画賞一般向け部門受賞、TVドラマ化・映画化もされるなど大ヒット作となる。『くだけるプリン』は女性6人のセックスまでの一部始終を描いた性にまつわる短編集。
新井見枝香 あらいみえか
書店員、エッセイスト。東京都出身。
芥川賞・直木賞の発表と同時に、自身がその半年間で最も面白かった1冊を発表する独自の文学賞「新井賞」を行うなど、カリスマ書店員として注目される。コラム執筆、文庫解説、TV・ラジオ出演など活動は多岐にわたる。現在は東京・有楽町にある書店「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」勤務。